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前書き
水の中って静かですよね。私は裸眼で目を開けていられないので、ゴーグルを付けます。そして、スッと水中に潜って目を開けると、なんだか地上にいるときより神経が研ぎ澄まされるような気がします。
音もずっと小さくなって、落ち着きます。そんな水中をイメージして書きました。
題名「BLUE」
*
私は今、うずまきに呑まれている。それは中心に向かって流れていく。
水温は温かく、流れは緩やか。しかし、うずまきは私を確実にその胃袋へと運んでいく。
あの穴へ呑まれたら私は息ができなくなる。
「…怖い。」
この流れに逆らいたい気持ちになり、外へ外へともがく。そんな努力も虚しく、うずまきは私をどんどん押し流す。
「どうしよう。このままでは…」と私の生命本能が叫ぶ。
…そうこうしているうちに、もう中心は目の前に迫っていた。
「もうここまで来たら仕方ない。呑まれるのを待つのみだ。」私の覚悟した。
「うっ。」体はうずまきの中へと吸い込まれている。私は思い切り息を吸い込み水中へと入っていった。
…私はふと目を開ける。ここは水中のはずなのだが、視界はゴーグルを掛けているときのようにくっきりとしている。
上を向くと光が降り注いでいる。青白い光が私の周りを包む。それは朝起きてカーテンを開けたときに見る太陽の光のようにギラギラとしていない。
直視しているにもかかわらず、全く眩しくない。まるで私の眼が自律し、喜々としてその光を受け入れているようだ。
さらに私は肺で呼吸していることにも気づく。
深くゆっくりとした呼吸を感じてみる。けれども、それは誰かの寝息を聞いてるようで現実味がない。
ここは天国なのか。私はすでに事切れてしまったのか。
しかし、私はあのうずまきに呑まれる前の出来事をしっかりと覚えている。あの恐怖を。
…「恐怖」といっても、それは言語として、また事象としてしか捉えることができない。
私は恐怖という感情を、感覚を忘れてしまっていた。この不思議な空間がそうさせているのだろうか。
同時に楽しさ、嬉しさ、はたまた哀しさも消えてしまった。つまり今の私には喜怒哀楽という概念が無い。
あるのは静かな呼吸とそれに伴った肺の動き、視線の先の光、プカプカとした浮遊感だけだ。
感情が無くなったのではと思ったが、ひとつ感じるものがある。
…ここは落ち着くなぁ。
自然と目は閉じられて、この心地よい空間に意識を集中させる。じーんとして温かい。
…日々忙しなく働く脳、体、そしてうっかりすると置いてきてしまう心。
そういった「私たち」を癒すための空間。
ここには重力は存在しない。身体は柔らかい綿のクッションに寄っかかるようにして脱力する。
過去や未来といった時間に縛られることはない。そして悩みは青い光が浄化してくれる。
よろしければあなたは目を閉じて、数秒の間、この空間を想像してみてください。
……。
ほんの一瞬でも癒しを体験できたなら幸いです。
<終わり>
*
最後までお読みいただきありがとうございます。
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