まっちゃんブログ

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創作小説「刹那」誰かが隣にいてくれたら。

ご高覧いただきありがとうございます。

前書き 

一人暮らしでも同棲されている方でも、孤独を感じる瞬間はあると思います。

そのとき私は川を眺めながら寂しさを感じていたんだと思います。しばらく時間がたってから振り返ってみないと、分からない気持ちでした。

題名「刹那」

*

…私は河原にいる。川を正面にして、アスファルトの地面にあぐらをかいて座っている。ぼーっと空を眺めていた。日は完全に落ち、空には星が点々としている。

 

ここは特別で、車が行き交う騒がしい道路から、少し奥まった場所にある。私は微かに聞こえてくる車のエンジン音を、厄介に思う。

しかしそんな私の小さなイライラは、川のせせらぎと共に静かに流れてゆく。とても心地良い音色だ。

ふと隣に気配を感じる。少しだけ右に首を傾けると、視線の端で光の玉を捉えた。それはピンポン玉くらいの大きさで丸く、そしてぼんやりと光を放っている。

1つ浮かび上がったかと思うと、1つまた1つと、まるで川のせせらぎのように、規則性があるようで、かといって全く同じ間隔でもなく、ゆらゆらと浮かんでは消えてゆく。

私は気になって更に首を傾ける。そこには、いつの間にか少女がいた。地面に手をつき、脚を延ばして座っている。

ひんやりとした空気に包まれ、肌寒い季節だが、白いワンピース姿だ。気温は彼女にとって意味を持たないらしい。

音もなく表れた彼女に私は、息を呑んだ。闇夜の中で彼女自身と光の玉が、暖色の街灯のように、優しく光る。

どうやら彼女は、私の視線に気づいていないらしい。その視線は、目の前の川でもなく、向こう岸の河原でもなく、遥か遠くを見ている。

その眼から感情を読み取ることはできない。人生に絶望した虚ろな目にも映るし、悟りを開き満ち足りているような目にも映る。

私は彼女の眼から体全体へ視野を広げた。肩が微かに上下しているのが分かる。ゆっくりと動く肩にしばらく視線を向けていると、ふと気が付く。

彼女の体で遮られるはずの、遠くにあるライトアップした橋が見えた。

彼女は、霊体のようだ。私は理解する。

私は好奇心に駆られて、声を掛けたくなった。しかし、声は出ない。彼女に声を掛けることで、自然の節理を司る歯車がずれてしまうように思ったからだ。喉まで出かかった声を呑み、諦めて川へ視線を戻す。

再び川のせせらぎが聞こえ始める。

 

…しばらくして、ふと私の頭に一つの仮説が浮かぶ。

彼女は、亡くなった祖父ではないか。姿かたち、性別も異なるが、彼女には修行を終え天国へ旅立った祖父の気配を思わせた。

ハッとして彼女を振り返ると、そこには闇夜が佇むだけだった。最後の1つの光の玉が空へ浮かび上がり、消失したのを境に、彼女の気配はどこかへ去ってしまった。

私は呆気にとられて、その闇夜を見つめていた。彼女の息吹を感じようと周りを見渡したが、もうそこは現実の風景に変わっていた。

<終わり>

*

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

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