まっちゃんブログ

ゲーム・読書・メンタルについて発信しています。

創作小説「ある森の中で」私の思い描く魔法。

ご高覧いただきありがとうございます。

前書き

 私のイメージする魔法とは敵を倒したり、派手な演出はありません。

実際の魔法が存在したなら、それは地味で退屈なものだろうと思います。

そして、その力を持つ者は忍耐強く、寛容である必要があるとも思います。

赤い炎というよりは、静かに燃える青色が似合うでしょう・・・

題名「ある森の中で」                                     登場人物      

*

・・・小さな森に夜の帳が下りた。

 木々は私を取り囲む。彼らの姿は、闇により黒マジックペンで塗りつぶされる。

私は静かに呼吸をしながら、息を潜めている。微風に揺れる枝葉は、深い闇へと手招きしているようだ。

私は騙されない。彼らは決して心を許すことはない。余りにも美しい彼らは、人を喰らう。

木々に口はないが、その根には生命を吸い取る力がある。

うっかり幹に寄りかかって、うたた寝してしまえば、もう夢から覚めることはない。

 大地は私の体重を支えている。この森にいる限り彼らもまた、私を迎え入れることはない。

今私が息をしていられるのは、森が黙認しているだけのことだ。

私がこの森に拒絶を示すようなことがあれば、彼らはあっという間に私を取り込んでしまうだろう。

 は森に溶け込むことに徹する。彼らは一定のリズムで呼吸をしている。それに倣うように私は目を閉じ、足を踏みしめて精神を統一する。

木にはオーラが流れている。無数の淡い緑の光が根から枝へと流れ、そして消える。それらが規則的に繰り返される。

 また、そのそのオーラを辿っていく途中には、黄色く輝く、ビー玉くらいの大きさの光が点々としている。

この光ひとつひとつがその木の持つ魔力だ。オーラや魔力は心の目を通してのみ見出すことができる。

 くるぶしくらいの雑草が生えるこの地面の下にも、膨大なオーラが流れている。私は踏みしめた脚からそれを感じ取る。木々のように色や動きまでは判別できないが、生命エネルギーがそこにあると分かる。

 彼らのように、私にもオーラは存在する。そして、魔力も。私は紺色のオーラとオレンジ色の魔力を持つ。オーラは木と同じように足先から頭へ流れて消えていく。

魔力は、心臓の位置に集結している。きっと彼らも、私に流れるオーラや魔力を感じ取っているだろう。

…私は体の内にあった意識を外界へ移動させるように、ゆっくりと目を開ける。いつの間にかは登り、青白い光が辺りをぼんやりと照らしている。

 

 先ほどの、おどろおどろしい雰囲気から一転して、森は美しい自然の景色へと変化する。木々や大地は月の光を受け、穏やかになったようだ。私は胸を撫でおろす。

 私は着ていたフードを上げ、天を見上げる。身に纏ったローブと握られた樫の杖の黒い影がくっきりと地面に映し出される。

空に毅然として佇む、大きな水晶玉のような月に私は目が離せなくなる。直視していても、眩しくはない。それどころか、光によって私の体は活性化しているようだ。

 あまりの美しさに私は思わず目を閉じ、両腕を大の字に開き、体全体に天の光を受ける。

実際月の光にはオーラの流れを整える力がある。それによって、魔力を回復させる。

 ・・・ガサガサ、ガサガサ。

生き物の気配を感じる。音のする方へ視線を移すと、すぐそばに獣がこちらに背を向けて何かしているようだ。こずえに遮られつつも、月明かりが薄っすらと輪郭を映し出す。

 それはイノシシのように見えた。大きさは1mを越える。岩のような肉体と、成人した大人の腕くらいありそうな牙が二つ、弧を描いている。そして、小さな馬のような尻尾と大きなお尻。

 私は気になって、背伸びをして覗いてみる。獣は食事をしていた。木の根元に生えたキノコを無我夢中で食べている。私はその姿をしばらく観察する。

 しばらくすると、獣の様子がおかしいことに気付く。食事のペースはどんどん遅くなる。

…そして、とうとう食べるのを止めてしまう。「ブギャー、ブギャー。」と呻き始める。

毒キノコを誤って食べてしまったようだ。苦しそうに呻き続け、最後にはドスンと体を横たえてしまった。

 私は急いで獣のそばまで近寄る。膝を付き、彼の体に左手を添える。

そして、獣の様態を調べる。虚ろな瞳の先は視点が定まっていない。

口からはよだれが垂れて、キノコの食べかけが地面に落ちている。体は微かに痙攣している。

 私は右手を胸へと移す。こぶしを握りこみ、その後、目をつむる。精神を統一させるため腹式呼吸をする。鼻から息を吸い、お腹を膨らませて、3秒間息を止め、口から少しずつ吐いていく。

そして、全ての意識を心の一か所へ集める。

オレンジ色のを放つ光は次第に強く輝いていく。次に目を開き、獣の体に添えた手に意識を移す。念じて大きくなった心臓部分の光は、肩から腕を通り手のひらに集まっていく。

 流れる魔力と同時に獣のオーラも見えてくる。紫色のオーラが緑色のオーラの中に混ざり流れが滞っている。これが毒の作用なのだろう。紫色のオーラは苦しみや恐怖といった負のエネルギーを表す。

「今助ける。」私は獣の体をさする。

 手の平に集まったオレンジ色の光が、じんわりと輝く。手にじりじりとした熱を感じつつ、「癒す」イメージを獣の体へと送る。

「メモーリアス…」私は呪文を囁く。次の瞬間、黄色い光が獣の体を包む。

 治癒は成功したようだ。獣の目の焦点は整い、呼吸も落ち着いている。

「メモーリアス」は治癒の呪文だ。毒はもちろん、出血や骨折も治すことができる。重症度合いによって魔力はより多く必要になる。

 

幸い、獣は胃の中でのみ毒が作用したため、大事には至らなかった。

 獣は体を起こす。こちらをじっと見つめている。どうやら感謝しているらしい。私は彼の頭を撫でる。「ブゥー!」とひと鳴きし、彼は森の奥へ去っていった。

 ・・・森に静寂が訪れる。私はフードを被り、森の奥へと進んでいく。私の旅の目的はその先にある。

<終わり>

*

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

スポンサーリンク